忙しい相手にも「伝わる」:短時間で要点を伝える文章作成ステップ
ビジネスシーンにおいて、相手が多忙であることは珍しくありません。そのような状況で送るメールやチャット、報告書などが長文であったり、要点が分かりにくかったりすると、相手の時間を奪うだけでなく、伝えたい内容が十分に理解されない可能性があります。
「忙しい相手にも確実に意図を伝えたい」という悩みは、多くのビジネスパーソンが抱えるものです。短時間で要点を正確に伝える文章スキルは、コミュニケーションの効率を高め、信頼関係を構築する上でも非常に重要になります。
ここでは、忙しい相手に「伝わる」文章を作成するための具体的なステップとテクニックをご紹介します。
忙しい相手に「伝わる」ための基本原則
忙しい相手に文章を伝える上で最も重要なのは、「相手の時間を尊重する」という意識です。この意識を持つことで、自然と文章に必要な要素が見えてきます。
具体的には、以下の3点を常に意識します。
- 目的を明確にする: この文章で何を伝えたいのか、相手に何をしてほしいのかを自分の中で明確にする。
- 要点を絞り込む: 伝えたいことの中から、本当に必要な情報、相手の行動や判断に関わる情報だけを厳選する。
- 迅速に伝える: 相手が短時間で内容を把握できるよう、簡潔で分かりやすい表現を用いる。
これらの原則を踏まえ、具体的な文章作成ステップを見ていきましょう。
ステップ1:文章の「コア」を定義する
まず、送る文章の最も重要な「コア」となる部分を定義します。これは、「この文章を通じて、相手に最終的に理解してほしいこと」「相手にしてほしい具体的な行動」です。
- 今日の会議の決定事項を共有し、認識を合わせてほしい。
- 来週の打ち合わせ日程を確定してほしい。
- 提案資料の承認を得たい。
- 発生した問題について、現状を報告したい。
この「コア」が明確であれば、文章の軸がぶれることがなく、不要な情報を省きやすくなります。
ステップ2:必須情報と補足情報を切り分ける
次に、ステップ1で定義した「コア」を伝えるために絶対に必要な情報と、理解を助ける補足情報に情報を切り分けます。
例えば、「提案資料の承認を得たい」というコアがある場合:
- 必須情報: 提案の概要(何についての提案か)、承認が必要な理由、承認の期日、資料本体へのリンク(または添付)。
- 補足情報: 提案に至った背景の詳細、関連する過去の議論、参考資料、質疑応答の見込み。
忙しい相手にとって、まず必要なのは「必須情報」です。補足情報は、関心がある場合や詳細を確認したい場合にアクセスできる形(別途記載、リンク参照など)にするのが親切です。
ステップ3:情報を優先順位付けし、構成を考える
切り分けた情報に優先順位をつけ、忙しい相手が最も早く知りたいであろう情報から配置します。一般的に、ビジネスコミュニケーションでは「結論」を最初に持ってくるのが効果的です。
基本的な構成としては、以下のような流れが推奨されます。
- 結論・最も重要な要件: この文章は何についてのものか、相手に何をしてほしいのか(または最も伝えたいこと)を簡潔に述べる。
- 例:「〇〇の件について、ご承認をお願いしたくご連絡いたしました。」
- 例:「来週の△△会議について、日程確定のお願いです。」
- 概要・背景: 結論に至った背景や、簡単な状況説明。
- 例:「先日のご指示に基づき、資料が完成しました。」
- 例:「候補日をいくつか提案させていただきます。」
- 詳細(必須情報): 結論を裏付ける具体的な情報、必要な数値、期日など。ここでステップ2の必須情報を具体的に記述します。箇条書きなどを活用すると、情報が整理され読みやすくなります。
- 補足情報への誘導: 必要であれば、詳細な資料や背景情報へのリンク、または補足は追って説明する旨などを記載します。
- 締め: 結びの挨拶、返信期限の念押しなど。
この構成は、いわゆるPREP法(Point-Reason-Example-Point)やSDS法(Summary-Detail-Summary)といった、要点を先に伝えるコミュニケーション構造の考え方に基づいています。文章全体をこれらの型の通りに構成しなくても、少なくとも冒頭で最も重要な要点を伝えるだけでも、忙しい相手にとっては読む負担が軽減されます。
ステップ4:表現を簡潔にするテクニック
構成が決まったら、個々の文章表現を簡潔にするテクニックを活用します。
- 冗長な表現を避ける:
- 「〜することができる」→「〜できる」
- 「〜といったこと」→「〜など」
- 「〜のために」「〜という理由で」→「〜のため」「〜により」
- 「拝見させていただきました」→「拝見しました」
- 修飾語を減らす: 不要な形容詞や副詞を削ります。
- 「非常に重要な」「大変困難な」→文脈に応じて必要か判断し、簡潔に。
- 一文を短くする: 長すぎる文は、主語と述語の関係が分かりにくくなります。接続詞で繋ぎすぎず、句点で区切ることを意識します。
- 箇条書きや太字を活用する:
- 複数の項目を列挙する場合は箇条書き(- または * 、1. 2.など)を使います。
- 特に重要な単語やフレーズは太字(太字)にします。ただし、多用しすぎると逆に見にくくなるため注意が必要です。
- 主語を明確にする: 誰が何をするのかを明確にすることで、誤解を防ぎます。
例文:
修正前(長文で分かりにくい例):
「先日お話しさせていただきました新しいプロジェクトの件で、現在の進捗状況と今後の計画について、皆様にご報告させていただきたく、このメールをお送りさせていただきました。現状といたしましては、初期段階の市場調査に関しましては概ね完了することができましたが、いくつかの点で追加の情報収集が必要であることが判明いたしました。具体的には、競合他社の最新の動向といった点が挙げられます。つきましては、市場調査の次のステップといたしまして、さらに詳細な分析を進めていく計画でおります。この計画に基づき、来週中に中間報告のミーティングを設定させていただければと考えておりますので、ご都合の良い日時をいくつかご提示いただけますでしょうか。」
修正後(簡潔で要点が伝わる例):
「新しいプロジェクト:市場調査の進捗と今後の計画についてご報告・打ち合わせのお願い
新しいプロジェクトの市場調査に関し、現在の進捗と今後の計画をご報告します。
現状: * 初期市場調査は概ね完了しました。 * 競合他社の最新動向など、一部追加情報収集が必要です。
今後の計画: * 来週より、さらに詳細な市場分析を進めます。 * 来週中に中間報告の打ち合わせをお願いしたく、候補日を調整させてください。
つきましては、来週の打ち合わせについて、ご都合の良い日時をご連絡いただけますでしょうか。詳細資料は別途共有します。」
修正後の文章は、件名で内容がすぐに分かり、本文も箇条書きで整理され、必要な情報(現状、計画、依頼事項)が短時間で把握できます。
まとめ:実践が「伝わる」文章への近道
忙しい相手に短時間で要点を伝える文章を作成するには、「相手の時間を尊重する」という基本原則のもと、情報の「コア」を定義し、必須情報を絞り込み、効果的な構成と簡潔な表現を用いることが重要です。
これらのステップやテクニックは、一度にすべてを完璧に実践する必要はありません。日々のビジネスメールや報告書作成の中で、意識的に「この文章で最も伝えたいことは何か」「どこを簡潔にできるか」と考える習慣をつけることから始めてみてください。
少しずつこれらのスキルを磨いていくことで、あなたの文章はより「伝わる」ものになり、忙しい相手とのコミュニケーションもよりスムーズになるはずです。