報告・情報共有で使える:事実を正確に伝える文章作成のステップ
ビジネスシーンでは、日々の業務報告や情報共有において、事実を正確に伝えることが非常に重要です。しかし、「事実だけを伝えたつもりなのに誤解された」「どこから書けば良いか分からず時間がかかる」といった課題を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
事実を正確に伝える文章を作成することは、スムーズなコミュニケーションを促し、誤った判断を防ぐ上で不可欠です。ここでは、誰でもすぐに実践できる、事実を正確に伝えるための文章作成ステップをご紹介します。
なぜ事実の正確な伝達が重要なのか
事実を正確に伝えることは、ビジネスにおいて以下のようなメリットをもたらします。
- 誤解や憶測を防ぐ: 客観的な情報に基づいたコミュニケーションが可能になります。
- 意思決定の質を高める: 正確な情報があれば、より適切な判断を下すことができます。
- 信頼関係の構築: 報告や共有の信頼性が高まり、円滑な協力体制が築けます。
- 対応の迅速化: 状況が正確に伝わるため、問題発生時などの対応が早まります。
事実を正確に伝えるための文章は、特別なセンスや才能は必要ありません。いくつかのステップを踏むことで、誰でも身につけることができます。
ステップ1:伝えるべき「事実」を明確にする
まず最初に、何を伝えるべき「事実」として捉えるかを明確にします。
- 客観的な情報に限定する: 見たこと、聞いたこと、起こった出来事、確認できた数値など、誰が見ても同じように認識できる情報を抜き出します。「〜と感じた」「〜と思う」といった個人の感情や推測は、事実とは分けて考えます。
- 5W1Hで整理する: いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)というフレームワークを使って、伝えたい事実を整理します。これにより、情報漏れを防ぎ、事実関係が明確になります。
例えば、「お客様からクレームがあった」という事象を伝える場合:
- いつ: 〇月〇日 午後3時頃
- どこで: (電話、メール、直接訪問など)
- 誰が: 〇〇社 〇〇様から
- 何を: 〇〇製品の不具合について
- なぜ: (不具合の原因など、分かっている範囲の事実)
- どのように: (電話で、具体的にどのような内容のクレームだったか)
このように、事象を5W1Hで分解・整理することで、伝えるべき事実関係が整理されます。
ステップ2:事実と解釈・意見を分ける
整理した情報の中から、「事実」と「それに対する自分の解釈や意見」を明確に区別します。そして、文章ではまず事実を提示し、必要に応じて解釈や意見を付け加える構成にします。
例えば、ステップ1で整理したクレームの件について、
- 事実: 「〇月〇日午後3時頃、〇〇社の〇〇様より、〇〇製品の不具合に関するお電話をいただきました。」
- 解釈/意見: 「この不具合は、過去の事例から見ると〇〇が原因の可能性が高いと考えられます。」
このように、事実と解釈・意見を区別することで、受け手は情報が客観的なものか、それとも送り手の主観が含まれているのかを判断できます。報告や共有の目的によっては解釈や意見も重要ですが、まずは事実を正確に伝えることが基本です。
ステップ3:分かりやすい構成で記述する
整理した事実情報を、受け手が理解しやすい構成で文章化します。
- 結論や最も重要な事実を最初に: メールの件名や冒頭で、最も伝えたい結論や事柄の概要を簡潔に示します。これにより、受け手はすぐに内容を把握できます。(これは「結論から書く」という基本的な文章構成の原則です。)
- 詳細を構造化して記述: その後、ステップ1で整理した5W1Hなどの詳細情報を記述します。時系列に沿って書く、項目ごとに分けて書くなど、読み手が情報を追いやすいように工夫します。箇条書きなども有効です。
例文(報告メール):
件名:〇〇製品の不具合に関するお客様からのご連絡について(〇〇より)
〇〇部長
お疲れ様です。〇〇です。
本日午後3時頃、〇〇社の〇〇様より、〇〇製品の不具合に関するご連絡をいただきましたので、ご報告申し上げます。
事象の概要:
・日時:〇月〇日 午後3時頃
・相手:〇〇社 〇〇様(TEL: xxx-xxxx-xxxx)
・内容:製品の電源が入らないという不具合についてのご連絡
・状況:〇〇様によると、昨日まで正常に使用できていたが、本日電源ボタンを押しても全く反応がないとのことです。ケーブルやコンセントの確認はしていただいたようです。
・対応:まずは製品のご返送をお願いし、弊社で状況を確認させていただく旨をお伝えいたしました。代替品の発送についても検討しております。
上記を踏まえ、〇〇様には大変ご迷惑をおかけしており、迅速な原因究明と対応が必要と考えられます。製品が到着次第、速やかに調査を実施いたします。
取り急ぎ、ご報告申し上げます。
この例文では、件名と冒頭で報告の概要を伝え、その後に箇条書きで5W1Hに沿った事実関係を整理しています。最後に、報告者の所感や今後の対応方針を付け加えています。このように構造化することで、読み手は短時間で必要な情報を正確に理解できます。
ステップ4:客観的な表現を心がける
事実を伝える際は、可能な限り客観的で具体的な表現を用います。
- 推測を事実のように書かない: 「〜だと思われる」「〜だろう」といった推測は、「〜と考えられます」「〜の可能性があります」のように、推測であることを明確に示す表現を使います。あるいは、推測に至った根拠となる事実を併記します。
- 具体的な数字や固有名詞を使う: 「多くの人が」「頻繁に」といった曖昧な表現ではなく、「〇件中〇件で」「1週間に〇回」のように具体的な数値を使用します。「あの件」「例の資料」ではなく、「〇〇に関する件」「〇月〇日付の〇〇資料」のように固有名詞を使います。
NG例: 「会議で多くの人から反対意見が出ました。」 OK例: 「〇月〇日の会議では、参加者10名中7名から反対意見が表明されました。」
具体的な表現は、事実の正確性を高め、読み手の解釈のブレを減らします。
ステップ5:誤解を生みやすい表現を避ける
同じ事実を伝えるにも、言葉選び一つで受け手の印象や理解度は変わります。誤解を招きやすい曖昧な表現や多義的な言葉は避けるように注意します。
- 「〜だが」の接続: 「〜だが、しかし」のように逆接を使う場合、逆接の後ろを強調したい意図が含まれることが多いですが、事実を淡々と伝える際には、接続詞を使わずに文を分けたり、「一方で」のような並列を示す言葉を使ったりする方が、より客観的に聞こえる場合があります。
- 主語・述語を明確に: 誰が(何が)どのような行動をしたのか、どのような状態なのかを明確にします。特に複数の人物や組織が登場する場合、主語を省略しすぎると誰の行動か分からなくなることがあります。
これらのステップを意識することで、報告や情報共有の文章は格段に分かりやすく、正確に事実を伝えることができるようになります。
まとめと実践へのヒント
事実を正確に伝える文章作成は、
- 伝えるべき「事実」を客観的に明確にする
- 事実と解釈・意見を分ける
- 分かりやすい構成で記述する
- 客観的な表現を心がける
- 誤解を生みやすい表現を避ける
という5つのステップで実践できます。
これらのステップを一度に全て完璧に行う必要はありません。まずは、日々の短い報告メールやチャットでの情報共有から、「事実を明確にする」「事実と意見を分ける」といった一部のステップを意識して取り入れてみてください。慣れてきたら、他のステップも加えていくことで、自然と正確に伝わる文章を作成できるようになるはずです。
正確な事実伝達は、円滑なビジネスコミュニケーションの基盤です。ご紹介したステップが、皆様の文章作成の一助となれば幸いです。