【例文あり】技術的な内容を専門外の人に「伝わる」ように書くステップ
ビジネスにおいて、自身の専門分野の知識や技術的な情報を、専門外の同僚や顧客に説明する機会は多くあります。しかし、「どうも話が伝わらない」「専門用語を使ってしまって理解してもらえない」といった課題を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
専門的な内容を分かりやすく伝えることは、プロジェクトのスムーズな進行、誤解の防止、関係者間の信頼構築のために非常に重要です。ここでは、技術的な内容を専門外の人にも「伝わる」ように書くための具体的なステップをご紹介します。
読者を理解する
文章を作成する前に、最も重要なのは「誰がその文章を読むのか」を理解することです。専門外の読者と言っても、その知識レベルや背景はさまざまです。
- 読者の知識レベル: その内容について、どれくらいの知識を持っているでしょうか。全く知らない人なのか、少しだけ知っている人なのかを把握します。
- 読者の関心・知りたいこと: 読者は何を知りたいのでしょうか。技術の詳細よりも、それがもたらすメリットや影響に関心があるのかもしれません。
- 読者の立場: 決裁者、利用者、協力者など、立場によって必要な情報の種類や詳しさが変わります。
読者の立場や知識レベルに合わせて、どの専門用語を使うべきか、どれだけ詳細に説明すべきかを判断することが、伝わる文章作成の第一歩となります。
伝えるべき要点を明確にする
あれもこれもと情報を詰め込むと、最も伝えたいことがぼやけてしまいがちです。特に専門外の人に向けて書く場合は、情報過多にならないよう注意が必要です。
文章を作成する前に、以下の点を明確にしておきましょう。
- この文章で最も伝えたい「結論」は何でしょうか。
- 読者に理解してもらいたい「重要なポイント」はいくつありますか。
- この文章を読むことで、読者にどのような「行動」や「理解」を促したいのでしょうか。
要点を絞り、それを明確に伝えることに集中することで、読者は迷子にならずに文章の 핵심(核となる部分)を理解しやすくなります。
専門用語を避ける、または丁寧に説明する
専門外の人にとって、聞き慣れない専門用語は内容理解を妨げる最大の壁となります。
- 可能な限り、平易な言葉に置き換える: 専門用語を使わずに説明できないかを検討します。
- 専門用語を使う場合は、必ず補足説明を加える: カッコ書きで簡単な説明を加える、脚注を使う、あるいは初めて出てきた際に段落を改めて説明するなど、丁寧な解説を心がけます。
また、比喩や具体例を用いることも非常に有効です。
- 比喩(アナロジー): 読者がすでに理解しているであろう物事に例えて説明します。「この機能は、スマートフォンのアプリをインストールするのと同じようなものです」のように、身近なものに置き換えることで、抽象的な技術もイメージしやすくなります。
- 具体例: 実際にどのような状況でそれが使われるのか、導入するとどのような効果があるのかなど、具体的な事例を挙げて説明します。
伝わりやすい構成を考える
文章の構成は、読者の理解を大きく左右します。特に専門外の人に向けた説明では、論理的で分かりやすい流れが重要です。
一般的に、ビジネス文書では「結論から書く」ことが推奨されます。これは技術的な説明でも有効です。まず最も重要な結論や要点を伝え、その後に詳細や根拠を説明する流れです(PREP法:Point, Reason, Example, Point - 結論、理由、具体例、再度結論、なども参考になりますが、ここでは概念として「結論先出し」を意識していただければ十分です)。
例: 「今回開発したシステムにより、顧客からの問い合わせ対応時間を20%短縮できます(結論)。なぜなら、AIがFAQを自動検索し、担当者は提示された候補から適切な回答を選ぶだけで済むようになるからです(理由)。具体的には、従来平均5分かかっていた一次回答が、このシステム導入により平均4分に短縮される見込みです(具体例)。このように、本システムは問い合わせ対応の効率を大幅に向上させます(再度結論)。」
このように、読者が最初に最も重要な情報を得られる構成にすることで、忙しいビジネスパーソンでも効率的に内容を理解できます。
具体的な表現を心がける
抽象的な表現よりも、具体的な数値や事例を示す方が、内容は圧倒的に伝わりやすくなります。
「処理速度が向上しました」よりも「処理速度が従来の2倍になりました」 「コスト削減に貢献します」よりも「年間約50万円のコスト削減が見込めます」 「使いやすくなりました」よりも「〇〇の操作が3クリックで完了するようになります(従来5クリック)」
このように、可能な限り定量的、具体的な表現を用いることで、読者は内容をより正確に理解し、その価値を把握しやすくなります。
例文で違いを確認する
最後に、専門的な内容を説明する際の、「伝わりにくい例」と「伝わりやすい例」を見てみましょう。
伝わりにくい例: 「本件のサービスは、非同期処理とマイクロサービスアーキテクチャを採用しており、RESTful APIを通じて外部システムとの連携を実現しています。コンテナ化技術とCI/CDパイプラインにより、スケーラビリティとデプロイ速度を確保しています。」
(解説:専門用語が多く、全体像やメリットが不明確)
伝わりやすい例: 「今回ご提案するサービスは、たくさんの処理を同時に効率よく行うことができます(非同期処理)。これは例えるなら、一度に複数の書類作成を並行して進めるようなイメージです。また、サービス全体を小さく分けて開発・運用しているため(マイクロサービスアーキテクチャ)、特定の機能だけを素早く改良したり、問題があった箇所だけを修正したりすることが容易です。これにより、新しい機能の追加や改善を、サービス全体を止めることなく、より短い期間で行うことが可能になります(CI/CDパイプライン、デプロイ速度)。外部のシステムとも、標準的な方法(RESTful API)でスムーズに情報をやり取りできますので、様々なサービスと連携させてご利用いただけます。これにより、お客様のビジネスニーズに合わせた柔軟な対応が実現できます。」
(解説:専門用語を避け、比喩や分かりやすい言葉に置き換え、それがもたらすメリットに焦点を当てています)
いかがでしょうか。同じ内容でも、伝え方を工夫することで、読者の理解度は大きく変わります。
まとめと実践のヒント
技術的な内容を専門外の人に「伝わる」ように書くためには、以下のステップを意識することが大切です。
- 読者を理解する: 誰に、何のために書くのかを明確にする。
- 要点を絞る: 最も伝えたい結論や重要ポイントを明確にする。
- 言葉を選ぶ: 専門用語を避け、平易な言葉や比喩、具体例を使う。
- 構成を考える: 結論から書くなど、読者が理解しやすい流れを作る。
- 具体的に表現する: 数値や具体的な事例を示す。
これらのステップは、一度に全てを完璧に行う必要はありません。まずは、次に技術的な内容を説明する際に、「この言葉は伝わるだろうか」「何に例えたら分かりやすいだろうか」と少しだけ立ち止まって考えてみることから始めていただければ幸いです。
「伝わる」文章作成は、練習すればするほど上達します。この記事でご紹介したステップが、あなたの文章作成の一助となれば幸いです。